その549 中庭 2025.6.28
2025/06/28
当院の1階には待合と廊下に囲まれたスペースに中庭がある。
小さな中庭で、周囲は4階建ての壁だから陽が射す時間はごく限られている。
数本の樹木が植えられていて、南天とトサノミツバツツジなど合わせて6,7本ある。
陽があまり射さないのだから、初めに植えた樹には枯れてしまったのもあった。
新しく植えてもまた枯れてしまったこともある。
しかしこの環境に耐えてきた樹木は、たくましく育ってきた。
南天の樹は陽光を求めて成長し、高さは1階の天井を越え白い花をたくさんつけ、
枝は少しでも陽光にあたろうと、扇のように広がっている。
母親の家で古いアルバムを見つけた。
ピアノの発表会で私が弾いている。
幼稚園の頃に赤いビロードの丸椅子を抜けそうなくらい高くして座っている。
四角いピアノ椅子も一番上の高さにして、足はブランブランで弾いている。
子供の頃はピアノをお稽古していてこうなりたい、
この曲が弾きたいとは考えていなかった。
ある時、練習でかんしゃくを起こしてピアノの蓋を乱暴に閉めたことがあった。
母が「なら、やめなさい。」と言って楽譜を押し入れに全部隠した。
泣いて出してくれとせがんだことを覚えている。
何に引っ張られたのか、いまだに弾き続けている。
今も椅子の高さは上から3つ目くらいが調度よい。
黒木雪音さんというピアニストのリサイタルを聴いた。
曲目は前半がショパンのノクターン、スケルツオ第3番、
ドビュッシーの月の光、バッハ作曲ブゾーニ編曲のシャコンヌ、
後半がリストの夕べの調べ、徳山美奈子のムジカ・ナラ、
ラフマニノフのリラの花とソナタ第2番。
繊細さとパワーを要求されるプログラムで、見事にその両方を表現された。
後半のプログラムは「鐘」をテーマに選曲されたとのこと。
素晴らしかったです。
次に聴く機会があれば、作曲家を少し絞ってお聴きしたいと思う。
7歳ですでにオーケストラと共演されたという才能が、
上へ上へとさらに求めて成長し、結実されたのだと思う。
今後ますますご活躍されることをお祈りします。